社員育成のために必要なのは「感謝」を忘れないこと
株式会社イノベーションワーキングカンパニー代表取締役社長 元木 和洋
「ありがとうと言われたエピソード」、答えられますか?
私は当社を経営している一方、立正大学経済学部の学生たちに「中小企業の魅力」について語る機会が多くあります。そこで、気がついたことは、人は「やりたいことを口にできるタイプ」と「内に秘めているけど、やりたいことを率直に口にできないタイプ」に二極化しているということです。
みんな生き方が違って当然です。10人いたら10通りの生き方がある。そのことは理解しているのですが、「やりたいことを素直に口にできない人」はそれまでの人生において、言葉でうまく表現することの訓練がなされていないと、私は見ているのです。
そうしたなかで、当社で必要としている人材、私が「ぜひ来てほしい」と思う人材は、「自分がこれまでやってきたことをアウトプットできる人」です。
――ありがとうと言われたエピソードを教えてください。これは、私が面接に入る際、「これが言えたら採用する」というキラーワードです。この問いに対して、学生たちがどう答えるのかを私は注視しています。ご両親や学生時代の友人、アルバイト先の上司や先輩後輩などについて、さまざまなエピソードを聞いてきました。微笑ましいと思うものや、ホロリと涙を流してしまうものなど、聞き入ってしまうような話もしばしば見られます。
けれどもなかには、「私はお話しできるようなエピソードはありません」と求めている答えが得られないこともあります。こうした人は残念ですが、当社で働いてもらうことはまずありません。
「ありがとう」は、相手が感謝の気持ちを持つような行動をしていたからこそもらえる言葉です。反対に「ありがとう」を言える人というのは、相手に対して感謝の気持ちを持っていたから。いずれも、「相手に対する思いやりの心」があることが明確です。
実はビジネスの現場は、「ありがとう」と言われることで、「次もまた一緒に仕事をしましょう」ときっかけの一つになることが多いのです。学生のうちから感謝の気持ちを伝えてもらえるということは、それだけ日頃の行動が温かく親切みのあるものだからなのです。こうした人材であれば、私は積極的に採用したいと考えています。


「ありがとう」と言われた、あるいは言ったエピソードを話せるかどうか。この点が人材採用のポイントになると、元木社長は力説されておりました。
「社員の幸せを考えられる社長」であり続けたい
私が今、社員たちに挑戦させているのは、「ありがとうポイントをためること」です。これはオリエンタルランドさんでも取り入れていることで、当社でも試みています。
具体的には、1ヵ月ごとに「仕事を通じてありがとうと言われたエピソード」を、社員全員に話してもらい、「誰の話が一番良かったか」を投票して決めていきます。それを年間12回開催して、「ありがとう」に関するエピソードで「いいね!」を一番獲得した社員には、私からご褒美をお渡しするという仕組みです。人間性を磨くという意味においては、非常に大切なことだと考えています。
また、毎週火曜日には、社員全員でオフィスの掃除を行います。私はこれを「ピカチューデー」(ピカピカする+チューズデーを掛け合わせた造語)と名づけました。これを取り入れることで、報連相をきちんと行うようになり、さらには会社内の行事に積極的に参加するようになったのです。
このようなエピソードだけでは、「ほんのささいなことじゃないですか」と指摘する人もいるかもしれません。けれども会社を創業した当初の私に対する戒めでもあり、「社員に気持ちよく仕事をしてもらいたい」という願いも込められているのです。
2014年に当社を創業した頃の私は、俗にいうワンマン経営で、社員の声を聞く耳など持っていませんでした。すべての判断は私自身が行って、社員をコマのように使う。こんなことでは、社員は絶対についてきません。今思えば、当時の私の顔つきはひどいものだったのではないか、と私自身が容易に想像できるくらいです。
そのことに気づいた私は、「社員を幸せにするにはどうすればいいのか」を考えるようになりました。社員が「この会社で働くことが幸せだ」と感じることができなければ、彼らにとってマイナスですし、この会社で働いている意味がありません。そう思わせないようにするためには、私自身が変わらなくてはならない――。そうしてたどりついたのが、「ありがとう」という言葉を感謝の気持ちに変えてビジネスを行うことだったのです。


「自分が変わらなければ、社員も変わらない」。そのことを念頭に置いて、勉強の日々です。
会社が発展するために必要な「後継者の育成」
当社は技術職を専門にして、クライアント先の会社で仕事を請け負っています。ITの技術革新は日進月歩で、「ここまで学んだからいいや」という終わりがありません。常に新しい情報、新しいスキルを身につけておく必要があります。ですから社員はもとより、経営者である私自身も、業界の動向には常に注視しています。
また、当社の中で「後継者の育成」を考えています。昨年、社員のなかから幹部を2人決めて登用しました。私から見て、彼らはまだまだ未熟な部分もありますが、今後育成していくなかで、人間的に成長し、会社の発展の一翼を担う人材になることを期待したいです。
もちろん会社が発展していくためには、私自身の成長も必要です。そのためにはまず私が「人の話を聞くこと」を第一に心がけています。これはある大企業の経営者の方から直接言われた言葉ですが、人の話に耳を傾けることで、先輩にかわいがられ、後輩から信頼されるということを教えてもらいました。
たしかに昔よりも人の話を聞くようになったことで、たくさんの人から手助けしてもらうことが多々ありました。リーダーが成長しなければ、社員と組織は発展していかない。そのことを肝に銘じて、日々の業務に邁進しています。
私はこれから先も、社員のポテンシャルを最大限に生かし、働きやすい職場環境作りに腐心していきたいと考えております。また、それがベンチャー企業である当社の良さでもあり、同時に強みでもあるはずです。


多忙な日が続いていても「今が一番充実している」と元木社長は笑顔でお話しされておりました。