スーパーフレックス制度が社員の健康状態を変えた
アウル株式会社代表取締役 兼 CEO 北村 俊二
1日1時間勤務もOK! 繁閑の差に対応するための“究極の策”
広告業界と聞くと“忙しい”というイメージを持つ方が大勢いると思います。確かに忙しいことは事実ですが、常に多忙を極めているわけではなく、繁忙期もあれば閑散期もあります。この繁閑の「山」と「谷」の差が非常に大きいため、繁忙期に突入するとバタバタしてしまう日々が続きます。
例えば、クライアントの記者発表の直前期はどうしても忙しくなり、作業は深夜にまで及びます。体力的な厳しさもあって、体調を崩してしまう社員もいました。さらに、夜遅くまで作業した翌日、午前9時の出社時間に間に合わずに「はい、遅刻ね」と杓子定規に判断せざるを得ない勤務体系もありました。そのような状況に煩わしさを感じて2014年にスタートしたのが「スーパーフレックス制度」です。
スーパーフレックス制度は、1ヵ月の所定労働日数20日と所定労働時間160時間(月により変動あり)の要件さえ満たせば、始業および終業時刻を自由に決められるものです。
1時間勤務すれば勤務日数に加算されるので、5日連続で1時間勤務だったとしても、勤務日数は5日分しっかりとカウントされます。フレックス制度でよく設定されるコアタイムはありませんし、遅刻という概念がなくなったので電車の遅延証明書を提出する必要もありません。もちろん、土日出勤した場合も労働日数にカウントされます。閑散期には休日をうまくつなげて“大型連休”をつくることも可能で、金曜日の午前中に1時間だけ働いて午後から旅行に出かけるなど、上手に活用する社員もいます。
近年は社会的にも働き方の多様性を推進する時代となり、当社でもリモートワーク(在宅勤務)や副業解禁などを導入しました。スーパーフレックス制度も社員の多様な働き方を認めるひとつの策です。社員一人ひとりに理想の働き方や休み方があります。スーパーフレックス制度によって、各自が仕事の繁閑に応じて働き方や休み方を自由にコントロールできるようになりましたし、この制度に対する社員からの評判も非常に高いです。


社員の働きやすさを高めるスーパーフレックス制度ですが、仕組みづくりは苦労の連続だったようで、「労務管理面で法に触れていないか社労士に確認したり、導入にあたり社員に説明したりと時間を非常に費やした記憶があります」と北村社長は当時を振り返ってくれました。
スーパーフレックス制度が生んだ絶大な効果と弊害
ところが、スーパーフレックス制度にも弊害がないわけではありません。自由な働き方を認めているため、やる気のある社員や業務量の多い社員の“働きすぎ”が発生し、残業時間が増えてしまうケースも出てきました。
そこで一定の残業時間を超えると私にアラート(警告)が出るシステムをつくりました。基準の残業時間を超えた社員が出た場合、すぐにその社員と面談し、タスクや案件の状況を確認します。残業時間の増加には必ず理由があるので、それが一時的なものなのか、長引くものなのかをチェックし、長引くものであればクライアントにご説明して納期の交渉をするなど、積極的にメスを入れています。現在は、3ヵ月に1人くらいのペースで基準の残業時間をオーバーする社員が発生していますが、以前と比べるとかなり減少しています。
その一方、スーパーフレックス制度は良い効果もたくさん生んでいます。その最たる例が、社員たちに自発性が芽生えたことです。この制度が始まって以来、管理されているという感覚が薄れ、仕事における“やらされ感”が少なくなりました。“やらされてやる仕事”と“自発的にアイデアを出す仕事”とでは仕事に対するモチベーションは全然違います。その結果、仕事のクオリティーも格段に高まりました。
そして、社員の心身の健康状態も非常に良くなりました。社会人にとって、健康管理は自己責任です。しかし、社員の健康管理を会社側が後押ししているか、もしくは会社側の配慮はなく社員に健康管理を任せっきりになっているかでは、雲泥の差があります。会社のルールに縛られたり、残業を強制されたりすると、必然的に自分自身の健康が犠牲になってしまいます。
そのような状況は絶対に避けなければなりません。広告業界は華やかな仕事が多い反面、ストレスを抱える仕事もあります。そのため、以前はメンタル面に不調をきたす社員もいましたが、スーパーフレックス制度の導入後はそのような社員は一人も出ていません。繁忙期はしっかりと働き、閑散期は心身ともにしっかりと休む。そのような働き方ができるのがスーパーフレックス制度の特長です。


スーパーフレックス制度は自由な働き方ができるため、社員同士のコミュニケーションが疎かになりそうですが、そこは問題なし。「社内イベントが多く、人事交流の機会を設けているので密なコミュニケーションはしっかりと築けています」と北村社長は胸を張ります。
従業員満足度の向上へ! まずは社員の不満を解消したい
スーパーフレックス制度の他、リモートワークの導入や副業解禁により多様な働き方を認めて働きやすさの向上を進めている一方で、これから改善しなければならない部分も多くあります。教育や採用の仕組み化、業務フロー改善、インターナルコミュニケーション(社内広報)の強化など、数え上げたらきりがありません。それらを一つひとつ抽出し、解決していくことが今後の課題だと思っています。
そこで特に意識しているのが、社員の声に耳を傾けることです。その一環として当社では3ヵ月に1回、「社内満足度調査」を実施。完全匿名で会社側は誰が書いたのかを絶対に特定しないというルールのもと、10点満点による定量的な評価と、各セクションに関する定性的なコメントを収集し、社員が会社に対して抱いている不満を洗い出しています。
完全匿名のアンケートなので、どれほど厳しい意見が寄せられるのか最初は怖くて仕方ありませんでした。しかし、回答の内容は「会社をもっと良くしたい」という想いがにじみ出たものばかり。そのような社員の声をもとに業務フローの仕組み化や新たな制度づくりを進めることで、会社がどんどん良くなっていると感じています。
社員満足度を高めることは、桶に水を汲むようなものだと思います。社員が不満を抱えているのは、言ってみれば桶に穴が開いた状態で、いくら水を注いでもすべて穴から出る一方です。つまり、社員満足度を高める際に優先すべきは従業員の不満を除去することです。何に対して社員は不満を感じているのか耳を傾け、ひとつひとつ穴を埋めていく作業を地味でもやっていくことが、社員満足度を高めていくための大事なステップだと思います。


数多くの福利厚生制度を導入しているアウル株式会社。入園・保育費の25%が支給されるなど充実の内容が揃うパパママ支援制度は社員の評判も上々で、北村社長も「制度を利用して素敵な家庭を築いてもらいたいです」と目を細めていました。