社員のキャリアを実現する“三種の神器”で徹底支援
株式会社エーピーコミュニケーションズ取締役副社長 永江 耕治
デジタル時代にあえてアナログ配布 その効果は!?
一般的に客先常駐型のエンジニアはキャリア形成が難しいと言われます。当社はその問題に真正面から向き合い、エンジニアが理想のキャリアパスを歩むための“三種の神器”として「キャリアアップガイド」「人事制度マニュアル」「事業戦略」の3冊を毎年つくり、全社員に配布しています。
「キャリアアップガイド」は2014年度、「人事制度マニュアル」は2015年度からそれぞれ製本化。デジタルが主流の時代において、あえてアナログで配ることにこだわり、2017年度からは「事業戦略」の製本・配布もスタートしました。「事業戦略」はかなり気合を入れて制作していることもあって、制作期間は半年、ページ数は約200頁にのぼります。背表紙もついていて、クォリティの高さにこだわりました。
3つの冊子を制作しているのは、当社代表(内田武志 代表取締役社長)の「社員のキャリアを大切にしたい」という強い想いが根本にあります。その想いを具現化するために、当社ではこれまでに「APアカデミー」(100種類以上のカリキュラムを用意した教育制度)や、誰もがわかり納得できる評価制度の導入に取り組んできました。
それらの教育・人事制度や会社の方向性を体系的にまとめ、可視化したのがこの3冊です。私自身、組織や人事への興味が強く、見識を深めるために大学院へ通ってMBA(経営学修士)を取得。そこで得たノウハウをこの冊子に注ぎ込んでいます。
エンジニアはこの3冊を手元に置き、いつでも確認できるようになったことで、大きな効果が生まれました。それは、社員たちが明確な目標を立てやすくなったことです。以前は「会社の目標って、何ですか?」「人事評価制度の評価期間や評価基準を教えてください」などの声があがりましたが、今ではほぼ解消。社員それぞれのビジョンを実現するための“羅針盤”の役割を果たしています。
また年に1回、必ず更新するので組織の成熟度や構成、市場の変化に合った“最新版”を社員に配布することができます。また、採用面接の際に用いることで学生や転職活動者へ適切な説明ができますし、質問にも的確な答えを返すことができ、採用のミスマッチの防止にも一役買うなど、多面的な効果を感じています。


「事業戦略の製本にはじっくりと議論を重ねています」とおっしゃる永江副社長。SWOT分析やデータ収集、前期の振り返りなどを踏まえた上で、重点施策や予算目標などを子細に記載し、社員の求める情報を集約しています。
短・中期の目標設定ツールで理想のキャリアパスを支援
社員自身が短期的な目標を立てる「目標管理シート」と、3~5年先までの中期的なビジョンを描く「キャリアシート」も、社員のキャリアを支援するツールです。社員たちには「キャリアアップガイド」「人事制度マニュアル」「事業戦略」の3冊を活用しながら、各シートを作成してもらっています。
短期的な目標と中期的な目標――社員の成長とキャリアパスを考える際に、この2軸は非常に大事だと思っています。目の前のことだけに固執していては理想の将来像とのズレが生じるおそれがありますし、理想の将来像だけを追い求めて目の前のことを軽視していては着実な成長は望めないからです。
この「目標管理シート」と「キャリアシート」をもとに社員一人ひとりのキャリアを支援するために、面談の機会を多数設けています。2~3ヶ月に1回程度のペースで行う上司との「1on1」では、社員が理想とするキャリアパスの実現方法を一緒に探ります。私も昨年は200人ほどと面談を行い、それぞれの社員が思い描いているキャリアプランを聞かせてもらいました。また、キャリアコンサルティング技能士の国家資格を持つカウンセラーによる「キャリア相談室」も用意し、社員を支援しています。
■エンジニアのキャリアをオーダーメイドする「プロフェッショナル職」
キャリアの形は社員の数だけ存在します。人によっては従来あるフレームだけでは収まらないキャリアビジョンを思い描く社員もいました。
そこで2015年に設けたのがプロフェッショナル職(プロ職)です。プロ職はエンジニアとして優秀な人材が日々の業務だけでなく、多岐に渡る活動を通して独自のキャリアを築くことができる制度です。プロ職の導入によって社員一人ひとりのキャリアにより深くコミットすることが可能になり、ある社員に至っては全国各地の講演に呼ばれるなど活躍の幅が飛躍的に拡大。いまではエーピーコミュニケーションズという社名よりも、彼の名前のほうが業界では有名になっています。
とはいえ、プロ職はまだまだ細分化できますし改善の余地のある制度なので、実態によりフィットする制度にブラッシュアップするために、今もディスカッションを繰り返しています。


2017年に日本能率協会主催のKAIKA賞を受賞したエーピーコミュニケーションズ。「エンジニアのキャリアを形成する様々な取り組みを評価していただけた」と永江副社長も感慨深げでした。
課題はインタラクティブなコミュニケーションを強化すること
当社の恒例イベント「ふれあうSAKABA」は年に4回、本社のバーカウンタースペースにお客様先や本社で働く社員100名ほどが集まる“一大立ち飲みイベント”です。仕事終わりに本社に集まり、夏は浴衣を着たり、正月は獅子舞を呼んだりと、毎回テーマを決めて大盛り上がり。私もコック姿に扮して社員と一緒に楽しんでいます。また、社員が気軽に参加しやすいように、基本的に飛び入り参加OKで、帰る時間も自由です。
「ふれあうSAKABA」を始めたのは、社員とのインタラクティブ(双方向)な関係性を強化するためでした。当社では年間を通して社員が一同に会する行事を開催していますが、以前は社員総会のように会社側から社員に対して“一方通行”で伝えるイベントが多く、社員からの質問はなかなかしづらいものでした。もちろん、社員総会も重要な場ですが、社員がもっと質問できる機会をつくるために「ふれあうSAKABA」を開催しています。
しかし、この「ふれあうSAKABA」にも課題はあります。毎回100人以上の社員が集まってくれますが、当社の社員数は375人。つまり、200人以上の社員が不参加で、しかも参加者は毎回同じような顔ぶれが並びます。そこで、参加する社員と参加しない社員の違いを分析したところ、ひとつの仮説を立てることができました。それは、参加する社員たちの多くが現場のチーム以外に、部署を横断したコミュニティに属している傾向が強いということです。
例えば、部活動支援制度「apclub」で活動する部活動の仲間や同期入社のグループ、一緒に研修を受けた者同士でコミュニティをつくり、「ふれあうSAKABA」などのイベントをみんなで集まる機会にしていたのです。今後はその点に着目し、小さなコミュニティをたくさんつくる取り組みを進めていくつもりです。まずは30~40人ほど集め、徹底的に会話できる「ふれあうSAKABA」の小規模版を開催し、部署を横断したコミュニティづくりを意図的に進めていきます。
仲間がいることは、とても重要なことです。もし、どのコミュニティにも属さず、社内にエンジニア仲間がいない場合、「この案件が終わったら、キリがいいから辞めよう」と離職につながってしまうことも十分に考えられます。当社の社員には当社でキャリアを積んでもらいたいので、“横のつながり”を形成する支援はさらに強化していきたいですね。


客先で働く社員が少人数で集まる「カタルバ」もインタラクティブな交流会とおっしゃる永江副社長。メインは食事会ですが、会社の事業戦略についてのディスカッションや社員からの質問タイムを設けているそうです。