10年超の紆余曲折を経て…社員が辞めない“新スタイル”
株式会社クレノヴァ代表取締役 河野 靖喜
「社長が同じフロアにいると…」そんな声から社長室を“隔離”
「退社時間をもっと早くしたい」
「有給休暇やバースデイ休暇の申請が紙ベースだと上司に面と向かって手渡さなければならないので、申請しづらい」
「社長が同じフロアにいると早く帰りづらいし、のびのびと働けない」
これらは実際に社内から拾い集めた“現場の声”の一例です。当社では月に1度必ず開催する親睦会やミーティングの中で、現場で働く社員たちが私に直接意見を伝えられる機会を設けています。
しかし、そのような場で意見を言えるのは役職者がほとんどで、若い社員は躊躇してしまいがちです。私自身もサラリーマン時代は社長に意見なんて言えなかったので、躊躇する気持ちは手に取るようにわかります。だからこそ、直属の上司や身近にいる先輩に悩みを相談しやすい環境づくりに注力しています。社長である私に直接言えなくても、上司や先輩を通じて“現場の声”が私まで届く関係性を築けていれば、現場で働く社員たちの本音をしっかりと汲み取ることができます。
冒頭に挙げた現場の声についても、「退社時間をもっと早くしたい」という要望に関しては、18時以降の電話対応を完全にアウトソーシング化して残業時間を削減しましたし、「有休やバースデイ休暇の申請がしづらい」という意見に関してはクラウド上で手軽に行えるように申請フローを大幅に変更しました。さらに「社長がいるとのびのびと働けない」というハッとさせられた声に対しては、オフィスのレイアウトを一新して社長室を“隔離”し、社員がのびのびと自主性を持って働ける社内環境を構築しました。
その他、女性用のパウダールームの設置やエスプレッソマシンの導入など、社員が発信した声には最大限応じてきました。しかし、社員の意見を確実に反映する環境づくりはまだまだ道半ば。これからも永遠にチャレンジし続けていきます。


家族や恋人の誕生日が休日になるバースデイ休暇。「大事な家族や恋人の誕生日よりも仕事を優先してほしくない」(河野社長)ことが導入の理由です。
葛藤の日々を乗り越えて辿り着いた“現在のカタチ”
“現場の声”を収集する取り組みを始めたのは、実は最近のことで、起業当初はそのような考えはまったくありませんでした。
当社を設立したのは13年前。出世街道を突っ走ったサラリーマン時代を経て独立した私は、自分自身の成功体験で培ってきた考え方や働き方が正解だと信じて疑わず、それを社員たちに押しつけてばかりいました。しかし、私が良かれと思ってやっていた数々の“お節介”は社員たちに受け入れられず、設立からしばらくの間は退職者が相次ぎました。
もちろん、社員たちが辞めてしまう状況なんて望んでいません。そこである日、退職届を持ってきた社員に「辞めることはもう止めない。ただ、辞める理由だけは本音で教えてほしい」と懇願しました。当時働いていた社員や、その後入社する新しい仲間が定着してくれる会社に変わりたいという気持ちが、その行動に駆り立てたのだと思います。
そして、退職者の話を聞いて実感したのが、私と若い社員たちの間には考え方や価値観で大きなギャップがあることでした。当時のテレビやマスコミは“若者の考え方や仕事への価値観が変化している”と盛んに取り上げていましたが、それはテレビの中の話だけではなかったのです。
それ以来、自分の考え方を180度変えて、現代の若者たちの考え方を受け入れるように努めました。しかし、それは私が培ってきた考え方や働き方を全否定することから始めなければならなかったので、初めのうちは頭では理解していても、行動にはなかなか移せず…。そんな葛藤の期間がしばらく続きました。以上のような紆余曲折を経て10年が過ぎ、ようやく若者の考え方を受け入れられるようになったのが2、3年前のこと。“現場の声”を収集し、改善していく取り組みを始めたのもその頃でした。


「私たちのビジョンに共感していただいた方を、選考段階で見逃がしたくない」と語る河野社長。採用の際は、スキルや経験以上にマインドを重視しているようです。
社員たちには日々生まれる疑問をどんどん発信してほしい
これまで述べてきたように、私は現場で生まれる悩みや問題点を収集し、改善していく環境をとても大切にしています。
だからこそ、働く社員たちには日々の業務中に生まれる「こうすれば業務効率が上がるのではないか」「この作業は無駄ではないのか」といった疑問を積極的に発信してほしいです。ほんの些細なことでも構わないので、どんどん意見を出し合って、伸び伸びと活躍してもらいたいです。それができない会社には今後の成長はあり得ません。社員たちが意見をぶつけ合いながら成長していく姿を見られるようになった時こそ、とてもいい会社になったな、と心から喜べる瞬間になるはずです。
●課題は業務の仕組み化 活躍できる舞台を整えたい
現在、当社が抱えている一番の問題点は、それぞれの業務が属人的になっている部分が多いことです。営業職を例に挙げると、社員それぞれの能力やセンスに委ねる部分がかなり大きく、セールストークもマニュアルのような決まりがあるわけではありません。これでは、能力のある社員だけが活躍する環境になってしまい、会社が成長していく上で弊害が生じてしまいます。
属人的な部分を解消するために、まずは業務の仕組み化に着手する予定です。それによって、これから入社する新入社員や経験が乏しい社員であっても、能力差に関係なく、同じ水準の成果をあげられるようになるはずです。
私のサラリーマン時代を振り返ってみても、会社が用意してくれた仕組みと環境があり、さらに販売しやすい商材や営業ツールまで与えてもらったので大きな成果を出すことができ、営業としての自信もつきました。つまり、業務の仕組み化は社員の活躍する場を整えることになるので、積極的に進めていくつもりです。


ある業務に偏る負担を分散したいとおっしゃる河野社長。「サッカーで例えるなら、個人技でゴールを決めるスタイルではなく、全員でパスをつないでゴールするスタイルに変えたい。それに合わせて評価制度も改定する」というプランを描いています。