限定職の導入、評価制度を刷新…すべては社員のために
株式会社ライフ白銅代表取締役社長 山田 広太郎
“異動の辞令”は出来る限り社員の希望に沿うように
複数の小売・サービス店舗を展開している企業にとって、店舗間の人事異動はつきものです。1都4県で飲食店やガソリンスタンド、スポーツジムなどを運営している当社もご多分に漏れず、異動辞令を出すことは少なくありません。しかし当社の場合、社員本人の意に沿わない異動辞令はできる限り出さないことが大前提。時にはこちらの意図を明確に伝えた上で異動をお願いするケースはありますが、「何年も同じ店舗に勤めているからそろそろ他の店舗に異動させよう」といった目的が不明確な辞令を出すのは言語道断です。
そのため、社員それぞれの思いを汲み取る機会を設けることは欠かせません。私自身、少なくても年に1度はすべての社員と面談を行い、今後のキャリアビジョンや現状抱えている不満などを共有しています。その際、「若いうちにいろいろな経験を積みたい」と名乗り出る社員がいればそれに応じたキャリアパスを用意しますし、「飲食に挑戦したいので異動させてほしい」と要望する社員がいればその思いを最大限尊重しています。
その一方で「異動はどうしても避けたい」と訴える社員もいます。その要望に応えるために同じ場所で働き続けられる「限定職」を新たに設けました。現在では全社員の20%弱が限定職として活躍してくれています。
また、2017年には評価の公平性を担保するために人事評価制度を刷新。目標管理制度(MBO)を新たに導入し、目標の達成度合いが昇給や昇格などに明確に反映できる評価制度に改定しました。正直なところ、誰から見ても公平な評価制度をつくることは不可能なのかもしれません。実際に運用1年目を終えて特筆すべき効果は出ていませんが、「新しい制度ができてよかった」といった社員の声が私の耳に届いていることに少し安堵しています。


社員の方々の要望を収集することに注力している山田社長。さまざまな外部研修を受講できる研修制度を導入しているのも、「研修を受けたい」という社員の声がきっかけなのだそうです。
サラリーマン時代の“不満”が会社づくりの礎
当社に入社する前、私はいわゆる外資系の企業に勤めていました。当時のサラリーマン時代を振り返ると、疑問や不満を感じたことが少なからずありました。自己評価と比べて周囲からの評価が低いときは納得できませんでしたし、社員に対する会社の接し方がドライすぎる面には寂しさを覚えました。そのような状況でモチベーションを高く保ち続けながら働くことは非常に困難でした。
サラリーマン時代のそんな経験が、現在の私の礎となっています。仕事や人材育成において最も大切なものはモチベーションです。もちろん、仕事のモチベーションが高まるポイントも人それぞれ異なりますし、社員たちの働く目的は千差万別です。それを理解したうえで、社員一人ひとりにやりたい仕事をしてもらい、高いモチベーションを維持した状態で仕事に向き合ってもらうことがとても重要だと思います。だからこそ、異動の辞令を出す際には社員の希望に沿うように努めていますし、異動を希望しない社員のための限定職も設けました。
評価制度を刷新した目的も、やはりモチベーションの維持です。公平性の高い評価制度によって自己評価と周囲の評価のギャップを埋めることができれば、私のサラリーマン時代の苦い思いを社員たちに味わわせることはなくなるはずです。以上のような取り組みにより、社員たちのモチベーションを高め、個人のパフォーマンスを最大限に発揮できる環境をつくることが経営者である私の役割だと思います。


新卒・中途を問わず入社後に各事業部をひと通り回るジョブローテーションがあるのも特長。「会社全体を知るだけでなく、既存社員との交流の場」(山田社長)になっています。
課題は、社員のキャリアアップを実現するポストの新設・増加
当社は長時間労働やサービス残業などの“ルール違反”はありませんし、残業時間についても目標管理制度の一項目に残業削減を入れたことで減少傾向にあります。飲食・サービス事業特有の「土日休みがとりづらい」「アルバイトの病欠により急遽出勤せざるを得ない」といったことは時折生じますが、就業規則を改定したことで最大限抑制できるように努めています。そして、以前は課題に感じていた評価の公平性の担保も、人事評価制度の刷新によって今後は実現できる手応えを感じています。手前味噌ですが、“当社はホワイト企業である”とは自信を持って断言できます。
とはいえ、課題もあります。それは、社員たちがキャリアアップできるようにポジションをもっと増やしていくことです。会社の現状を考えると役職やポジションの数を一気に増加するフェーズではまだありませんが、今後は会社規模の拡大に伴って必要なポストを新設・増加することで、社員たちがそれぞれのキャリアビジョンを実現できる会社づくりを進めていきます。
また、当社の特長のひとつが給与水準が業界においてかなり高いことです。社員たちはそれに見合った活躍をしてくれていますし、サービスレベルの面でもフランチャイズ本部などから高い評価を獲得しています。しかし、給与水準が高いということは、言い換えれば人件費が高いことを意味します。今後はクオリティーの高い人材でなければできないような付加価値の高いビジネスを模索していかなければならないと考えています。社員たちが高いモチベーションを維持して仕事に向き合える会社であれば、必ず成功できるはずです。


社員の方々に対して「“働いていただいている”という認識でいます」とおっしゃる山田社長。社員の給与水準が高い理由のひとつは、そんな思いの表れかもしれません。