週1回の「おやつタイム」がワークライフバランスを実現させた
株式会社ウィルド代表取締役 大越 賢治
社員同士のプライベートを知る「おやつタイム」
毎週火曜日の15時、社員たちは一斉に仕事の手を休め、社内の喫茶スペースにやってきます。そして、社員たちが旅行先で買ってきてくれたお土産や会社が用意したお菓子などを頬張りながら、家族の話や趣味の話題で大盛り上がり。その間、仕事の話をすることは一切ありません。これが、当社が取り入れている「おやつタイム」です。
「おやつタイム」を導入したのは5年前。それ以前も不定期で開催しており、私が外回りからの帰りにケーキを買ってきたり、連休明けに社員たちがお土産を持ち寄ったりした時に、自然とみんなが集まっては談笑していました。これが社員同士のコミュニケーションを深めるのに良い時間だったので、毎週の社内イベントとして導入を決定。それ以来、毎週火曜日の15時からの30分間を「おやつタイム」とし、社内交流の場にしています。
「おやつタイム」の最大の効果は、社員同士のプライベートを共有できることです。子どもが何人いてそれぞれ何歳なのか、どんな趣味に興じているのか、連休中は何をするのか。社員それぞれがプライベートで大事にしているものを知れば、周囲の接し方はおのずと変わります。
たとえば、明日の夜に家族のイベントが控えている社員がいれば、遅れないように周りもサポートできますし、ゲーム好きの社員が新しいゲームの発売日に有給休暇を取ることを誰もとがめないでしょう。「おやつタイム」での他愛もない会話を通じて社員同士のコミュニケーションを深めることは、社員それぞれのワークライフバランスの実現につながっています。


以前は「おやつタイム」とネット検索すれば株式会社ウィルドの取り組みを紹介した記事が上位表示されていましたが、2018年の平昌冬季五輪で女子カーリングチームが活躍したのを機に様相は一変。「カーリング人気は検索結果も変えてしまった」と大越社長も苦笑いでした。
最初は「ワークライフバランスなんて無理だ」と思っていた
私がワークライフバランスの存在を知ったのは2011年の秋、とあるIT系のセミナーに参加した時でした。登壇した講演者はワークライフバランスの重要性をとくとくと説明していましたが、聴衆者は過酷な労働環境に身を置くIT企業の人ばかり。「それは無理だよ」「できるわけない」と呆れ返る人が続出しました。私も実際、「無理だろう」と思っていた一人でした。
ただ、「もし、実現できたらいいな」という想いが芽生えたのも事実で、セミナーからの帰り道に本屋へ立ち寄り、ワークライフバランスに関する本を1冊購入。その本を読みながら、ワークライフバランスの実現への取り組みを少しずつ始めました。
ところが、最初は失敗の連続。女性にとって働きやすい環境づくりを進めたところ、私のミスリードもあって女性以外の社員にしわ寄せが及んでしまい、労働時間に制約のない社員のワークライフバランスが蔑ろになってしまいました。
そこで今度は成果重視型にして、課されたタスクを片付ければ退社できるようにしましたが、今度は社員同士の助け合いがなくなり、若手の教育も滞ってしまうという悪循環に陥りました。言わずもがな、その当時はコミュニケーションなどまったく取れていませんでした。そんなときに「おやつタイム」が社員同士の心をつなぐきっかけとなったのです。
■社員同士のコミュニケーションを深める“3本の矢”
社員間のコミュニケーションを深める取り組みは、「おやつタイム」だけに限りません。「スケジュールのオープン化」もそのひとつで、当社のほとんどの社員が、社内共有用のカレンダーにプライベートの予定も入れています。
もともとは私が仕事用とプライベート用の2つのカレンダーを持つのが面倒だったので、仕事用のカレンダーに子どもとの予定や友人と会う約束などを登録していたのですが、社員も次第にプライベートの予定を入れ始め、仕事以外の予定もオープンにするようになりました。それによって、明日の夕方に予定がある社員がいればそれに合わせた仕事の振り方をするなど、ワークライフバランスの実現に一役買っています。
また、「月1回の個人面談」もコミュニケーションを深めるために大切なものです。個人面談の目的には、離職の防止という側面もあります。仮に個人面談を年2回しか行わなかった場合、次の面談までの半年というのは、悩んで、葛藤して、相談する前に退職届を出すには十分すぎる期間です。1ヵ月に1回対話する場を設けることは離職の芽を摘み取ることもできますし、「おやつタイム」では話せないような深いことも相談できます。
「おやつタイム」「スケジュールのオープン化」「月1度の個人面談」。この3本の矢が、コミュニケーションを深める当社の取り組みです。


社員のワークライフバランスを実現するために、仕事を“選ぶ”ようにしたと語る大越社長。土日や休日を潰すような無理な仕事は一切受けず、社員のプライベートを最優先することで働きやすさを向上しています。
課題は社員全員が社内で働ける環境をつくること
私たちの業種柄、“お客様ありき”の仕事になってしまうのは仕方のないことです。たとえば、大手企業や急速に成長拡大している企業のような大きな会社のビジネスパートナーとして仕事をする際は、お客様先に常駐して働くことが求められます。そうなってしまうと、社員たちは異なる場所で働くことになるので、お互いのコミュニケーションを深める機会が減ってしまいます。お客様には週1日は当社の社内で作業できるように交渉していますが、実現はなかなか難しいのが現状です。
客先常駐で働く社員に対しては、月に一度私が現場へ行って個人面談をしていますが、現状ではそれが精いっぱい。「おやつタイム」に参加してもらうこともできません。現在、客先常駐と社内勤務の割合はおよそ50:50なので、この比率を社内勤務が大きく上回る状況にすることが当面の課題です。
この課題をクリアすれば、社員全員での勉強会もできますし、月に1回夜に行っている全体会議を日中に移すことで、今は参加できてないお母さん社員の参加も可能になります。さらに、「おやつタイム」で全員が顔をそろえることもできます。そのためにも、まずは社内で仕事ができるビジネスモデルを確立しなければなりません。その施策は徐々に進んでおり、現在は農家と手を組んでIoTによる農業支援にも着手しています。このような事業の拡大を進めていくことで、ゆくゆくは社員全員が社内で働ける環境をつくりたいですね。


IoTによる農業支援を行っている株式会社ウィルド。現地の田んぼの状況とこれまで蓄積したデータをもとに収穫量と品質の安定化を図るなど、新しい技術領域に挑んでいます。
大越 賢治 プロフィール
1975年、東京浅草生まれ。2000年に東京理科大学工学部電気工学科を卒業し、中小Sierに就職、官公庁案件でSEとして6年間勤務する。06年5月に株式会社ウィルドを設立、副社長に就任。09年5月より代表取締役(現職)に就任。趣味はテニス、ゴルフ、スノーボードという4児のパパ。