9連休を必ず取得する「長期休暇制度」導入の理由
株式会社ヨシザワ建築構造設計代表取締役 吉澤 宏泰
「必ず9連休を取得ください」 はじめは社員から大ブーイング
年に1度、必ず9連休を取らなければならないというルールが当社にはあります。「長期休暇制度」というもので、平日の5日間とその前後の土・日曜を合わせた9日間を休日にするものです。連休を取る日程は社員が自由に選べますが、“9連休しない”という選択肢はなく、強制的に9連休を取ってもらいます。
「長期休暇制度」を導入したのは3年ほど前でした。社員が喜んでくれると確信して提案した制度でしたが、予想に反して社内からは大ブーイング。「9日間も連続で休むなんて無理だ」「9日間も仕事をストップするわけにはいかない」「そんなに休んだら周りに迷惑をかけてしまう」と反対する意見が続出しました。もちろん、私自身もこの制度が会社に大きなダメージを与えかねないことは百も承知でした。
それでも導入に踏み切りたかった私は、全社員のご家族に宛てたハガキで「長期休暇制度」を取り入れたい旨を伝えました。すると反応は社員たちとは対照的に、ご家族はとても喜んでくれ、結果的に社内で噴出していた反対の声は次第に収まっていきました。現在では、社員たちは競って9連休のスケジュールを確保しています。お子様がいる社員は長い夏休みを一緒に過ごし、旅行好きの社員は旅費の安いオフシーズンに悠々自適な旅を満喫しているようです。毎年海外旅行している社員もいます。
こうして私が「長期休暇制度」を取り入れたかったのは、2つの目的がありました。その目的は、①会社組織のさらなる強化と、②従業員の心の健康の向上です。


建設業界では珍しく「完全週休2日制」を取り入れている同社。導入にあたって顧客から不満の声がありましたが、吉澤社長自らが顧客の理解を得るために奔走。導入にこぎつけました。
社員一人にしわ寄せがいかない組織づくりへ
「9連休の長期休暇制度が会社組織を強くする」と聞いても、ピンと来ない方のほうが少ないと思います。むしろ、この制度の導入時に社員からあがった「9日間も仕事を止めるわけにはいかない」という声に共感する方のほうが多いのではないでしょうか。
私はそうは思いません。ある社員一人がいないだけで仕事が回らなくなるような属人的な組織では、結局はその社員一人にしわ寄せが及んでしまいます。少し表現を変えれば、9連休を取ると仕事が回らない組織では、仮にキーマンが会社を辞めてしまったら立ち所に業務が成り立たなくなってしまいます。そのような会社組織に陥らないために「長期休暇制度」は効果的なのです。「長期休暇制度」は引き継ぎ技術を磨き、他の同僚の仕事を知るための格好の機会になります。「人」に「仕事」をつけない。「仕事」に「人」をつける。つまり、誰か一人にしかできない仕事をなくすことが会社組織の強化につながるのだと考えています。
■選ばれる会社になるために 業界の型を破った「完全週休2日制」
「長期休暇制度」のもう一つの目的が、従業員の心の健康の向上です。休日が少ない建設業界において、しっかりと休暇が取れてプライベートの時間を確保できる企業はなかなかないと思います。ましてや当社は完全週休2日制の導入や月40時間以上の残業を防ぐ体制づくりなど、社員のワークライフバランスを非常に重要視しています。
その理由は、それらの取り組みに着手し、ワークライフバランスを実現した会社でなければ学生や求職者から“選ばれる企業”にはなれないからです。“建設業界だから休日が少ない”というイメージから脱却するためにも、「長期休暇制度」「完全週休2日制」「月の残業40時間以内」という業界の常識を覆す取り組みを行い、会社の体質改善を図ることは欠かせないことだと思います。


「“仕事”に“時間”をつけるのではなく、“時間”に“仕事”をつけることが重要」だと語る吉澤社長。社員全員のスケジュールを管理できるグループウェアの導入や、すべての会議を最大45分に制限するなどの取り組みで、時間に対する意識を社内に浸透させています。
付加価値(質)の低減を抑えながら、ワークライフバランスの実現へ
「長期休暇制度」をはじめ、「完全週休2日制」「月の残業は40時間以内」といった社員のワークライフバランスの実現への取り組みがもたらすものは、メリットだけではありません。勤務時間(量)の減少にともない、付加価値(質)が低減してしまう恐れもあるからです。
たとえば、大砂漠の中を数日間さまよった末に自動販売機を発見したら、100円のジュースが1000円で売られていたとしても買うはずです。この100円を1000円にするものが付加価値(質)であり、私たちがお客様に提供していくべきものです。
ところが、ワークライフバランスの実現に伴う勤務時間の短縮によって、当社が提供できる付加価値(質)も少しずつ減ってしまうのではないか、と危惧しています。私が若かった時代は、ひとつの物事に500時間かけなければプロフェッショナルにはなれないと教えられ、いち早くその500時間をクリアするために夜遅くまでバリバリ働いていました。その働いてきた“量”の分が、付加価値である“質”を高めてきたことは間違いありません。しかし、そのような働き方は今の時流には合いません。勤務時間を増やすことなく付加価値(質)を高められる方法はないか。その答えを見つけることが、当社の今後の課題だと思います。


吉澤社長が求める人物像はよく気がつく人。「タバコを持ってくるように頼まれたら、ライターと灰皿も用意できる人になってほしい。当社は禁煙ですけどね」とユニークな例えで教えてくれました。