保育園の働き方改革へ~「残業禁止」が保育士を守る~
株式会社エーキャスト(平和島サニー保育園)理事長 中西 大輔
保育士の労働環境の改善は絶対に外せないテーマ
人材派遣会社の役員である私が保育園業界に参入したのは、2017年4月のこと。きっかけは、産休育休明けの女性の働き口があまりに少ない状況のなか、“子どもを預けられる場所”を増やせば、産休育休明けの方々にもっと仕事を提供できるのはないか、と思ったことです。そうして、まったくの異業種から保育園業界の道を歩み始めましたが、いざ保育園の世界に足を踏み入れると、その問題点の多さをつぶさに目にしました。
一番の問題は、メディアでも大きく取り上げられている待機児童の問題。実際に保育園を運営する中で、働くお母さんが我が子を受け入れてくれる保育園がないと言って、泣きながら相談に来るケースもありました。これほどまでに待機児童の問題はひどいのかと、現実を目の当たりにしたときは本当にショックでした。
保育園の環境をよくしてあげたい――。私が保育園業界に携わって日夜考えていることです。
子どもたちにとって、最良の環境とは何か? それは、子どもたちにすくすくと育ってもらう環境です。その環境を整えるには、子どもたちを指導する保育士たちの労働環境を良いものにする必要があります。そこで当園では、一般的に保育士の労働環境で生じやすい問題が起きないように、いくつかの決まりを設けています。
たとえば、保育士の休憩時間。よくある光景として、子どもを抱えながら食事をするのが保育士は当たり前とされていますが、私たちの保育園ではこれを禁止し、休憩室で食事を摂るようにしています。
また、「残業」は原則禁止しています。どうしても残業が必要な場合、私の許可を得なければできないので、無駄な残業は一切ありません。「持ち帰り残業」はもってのほかです。
さらに年間稼働時間は255日で労働基準法で定められている水準よりも多く設定しており、できるだけ休みをとってもらえるように配慮しています。そしてなにより、当園の社員には子育て経験のある方が多いので、他の保育士が「子どもが急に熱を出してしまって出勤できない」という場合でもお互いにカバーしようというチームワークが醸成されているのは、私としても心強いです。


保育士の労働環境改善に真正面から取り組む中西理事長。取材訪問時には、社員の方々から寄せられる信頼もさることながら、園児やその親からも慕われているシーンを何度も目の当たりにしました。
働きやすい環境は、人間関係のトラブルが生じない職場
20年以上、人材派遣業界で働いているなかで、考えさせられることがありました。それは、「職場上のトラブル」についてです。その中でも、常にトップに挙げられるのは、「人間関係のトラブル」でした。人間関係のトラブル、あるいは社員同士の仲違いは周囲に悪影響を及ぼしてしまいます。それだけに良好な人間関係を築くことがよりよい職場環境をつくる第一歩になると思いますし、トラブルを未然に防ぐことが働きやすい職場づくりには欠かせません。
そこで私はよく、社員たちと食事に行くようにしています。大人数で出かけることもあれば、マンツーマンで向き合って他愛もない世間話から仕事のことまでじっくりと話すこともあります。そこで、社員が抱える悩みや不満を共有し、解決するために一緒に考え、アドバイスをしています。それにより「考えをあらためます」と言ってくれる社員もおり、大きな問題に発展することなく収拾できます。
さらに保育園の環境改善の向上を図ろうと、私はある取り組みを進めていこうと考えています。それは週1回職員会議を開き、保育士のグループを2つに分けて子どもへの対応の在り方について、議論してもらおうというものです。
子育ての方針はご家庭によって千差万別です。それを保育士たちも受け入れて子どもたちの対応をはかっていますが、時には保育士間での考えの相違やちょっとした言葉の掛け違いなどに、不満を感じる保育士もいるはずです。
そうした認識の違いや不平不満を解消するために、「今、保育士として子どもたちとどう向き合っていくべきか。そのためのサポートを保育士同士でどうやっていけばいいのか」について議論していただき、よりよい労働環境をつくっていきたいと考えています。


職場内の人間関係には特に心を配っている中西理事長。「もしも人間関係で問題が生じたら、必ず私か園長に打ち明けてほしい。かならず解決するから」と社員の方々に伝えているそうです。
保育士の“人間性”を高める研修を導入する理由
当園では知育や体育以上に、「子どもたちに何を伝えられるか」という保育理念を大切にしています。子供たちは、大人の日頃の態度や立ち居振る舞い、道徳観、愛情のかけ方などを見て、日々成長していきます。そのため、保育士の“人間性”は、子どもを育てるうえで極めて重要だと思います。しかし、保育園という職場の懸念点は、子どもに接するスキルを高められる反面、ビジネススキルを磨く機会がほとんど無いことです。
そこで当園では、保育士のスキルアップ研修だけでなく、一般的なビジネスマナーや一般教養など“人間力”を培える外部研修に積極的に参加してもらっています。今後は、茶道や華道なども取り入れ、大人としての礼儀作法をしっかり身につける場を提供していきたいと思います。
福利厚生面では、「自己育成支援」を現在計画中です。たとえば、保育の知識や自己啓発につながる本を1冊読んで、感想文を提出してくれたら手当を支給するということを考えています。自己研鑽はスキルアップに欠かせないものなので、社員たちが自主的に学ぶ姿勢を持ってくれれば幸いです。また、資格取得支援制度も計画しており、現在子育て支援員として働いてくれている方々が保育士の免許を取得できるように、勤務時間および費用の面でバックアップしていきたいと思います。
社内の交流イベントでは、私が役員を務める会社がJリーグ「湘南ベルマーレ」のスポンサーに加盟している関係で、試合を観戦したり選手と触れ合えるイベントにみんなで参加しています。そして、今後は横浜の山下公園周辺で開催されるボートレース大会に、社員や園児の親御さんと一緒に参加する予定で、順位によって大会後に横浜中華街で行う打ち上げの店を決めようと盛り上がっています。このような、みんなに楽しんでもらえるイベントをいろいろと画策中です。
将来的には、私たちが運営する保育園を5つまで増やしたいです。園が増えればその分園長になれる人が増えます。そうすると、お給料も多くあげることができるでしょうし、5つの園を統括管理する新しいポストもできるので園長のさらに上を目指せます。そうすれば、社員にお渡しできるお給料も増額することができますし、キャリアアップや生活水準の向上も提供できるはずです。
以上のような取り組みを通じて、社員たちを最大限サポートしていきたいと考えています。


次から次へとユニークな社内イベントを開催する中西理事長。「今後は社員にもどんどん提案してもらいたい。私はそれをサポートする役割でいいので」と目を細めていました。