一流の医療人とは、一流の奉仕ができる人
東京衛生アドベンチスト病院院長 西野 俊宏
「奉仕の精神」を育む日々の取り組み
「ここって怖い人がいないですよね」
別の病院から移ってきたドクターや看護師が口をそろえて言うのがこの言葉です。当病院の職員はみんな優しく、人間関係でギスギスしたところがありません。
このような環境が確立している理由として、私たちが医療技術や利益の追求以上に、患者さんへの奉仕を一番に考えていることがあげられるでしょう。当病院はキリスト教が母体であり、「奉仕の精神」をとても大切にしております。患者さんに良い奉仕をするには、同僚にも同じように奉仕の精神を持って接しなければなりません。同僚を大切にできない人が、患者さんを大切にできるはずがないからです。
この奉仕の精神を職員全員で共有するために、さまざまな取り組みや理念研修をしています。例えば、朝の礼拝では診療科ごとに集まって讃美歌を歌ってお祈りしたり、牧師や各部署の人が聖書の一説を用いてお話をしたりします。また、隣に教会がある影響も大きく、教会での活動に病院職員が参加したり、教会の方が来院したりするなど、交流を頻繁に行っています。
そのような取り組みの中では、人を大切にしよう、といったメッセージが常に発せられています。それにより、奉仕の精神が職員に浸透しています。
新人の方には特に、奉仕の精神の理念をいち早く学んでもらっています。そうすることで、この病院に慣れてもらい、本人にとって心地よい職場にしてもらいたいからです。これは長く勤めてもらうためには欠かせません。


「職員のやさしさには、ある程度自信を持っています」と語る西野院長。そのカギは理念教育にありました。
聖書の教えに則り、一流の医療人に
私が役職に就く職員を面接する際、必ず伝える言葉があります。それは「偉くなりたいのなら、仕える人になりなさい」というものです。
偉くなるとは、権力を振るったり部下に服従を強いたりすることではありません。自分が部下のために仕える。部下を尊重し、働きやすい職場を作っていくことが責任者の在り方だと思います。
また、リーダーになる人間は自分で判断をしなければならない場面が出てきます。その際は、「誠実に働く」という聖書の原則に則り、判断をするように諭しています。その場しのぎの対応をしたり、その時にやるべきことを後回しにしたりといった、不誠実な働き方はするべきではありません。役職に就く職員に対しては、この原則のもとに行動するように指導しています。
以上のように、「奉仕の精神」を持ち、誠実に働いている人こそ“一流の医療人”であると私は思います。現在は医療が標準化しています。どの病院でも治療に違いはほとんどありません。最新の医療技術を身につけるのは最低限のラインです。その上できちんと奉仕することにこだわり、患者さんの心をケアすることが大切です。
人の能力にはそれぞれ違いがあります。長所や短所も千差万別です。そのなかで、当病院の職員たちには自分の特性を生かしながら、“患者さんの役に立ちたい”という気持ちでは一流になってほしいです。


今日のインタビューでは、西野院長に「医療人」について熱く語っていただきました。目指すのは体だけでなく、心のケアも行う医療です。
お金が欲しいなら医療に携わるべきではありません
現在、当病院には抱えている問題があります。優しすぎる職員が多いことです。優しいからこそ本音を言えていない部分があります。厳しく言わなければならない時も甘く接してしまい、それが職員たちの成長の妨げとなってしまうのです。ただ甘やかすことが愛情ではありません。相手のためを思い、愛情を持って怒っているのなら悪いことではないのです。今後はきちんと相手のことを思いやって叱れる職員を育んでいきたいです。
また、お給料についても認識しておいてもらいたいことがあります。医師や看護師は、給与や待遇が良いとういうイメージが持たれています。当病院も例に漏れず、決して給与額は低くありません。しかし、東京で一番高い給料をお支払いすることは難しいかもしれません。
そもそも、お金を稼ぎたいのなら医療の道に進むべきではないと思います。勉強や研修に費やす時間や一人前になるまでに要する年月を考えると、時間的にも金銭的にも投資は非常に大きなものです。そして、医療は一歩間違えると取り返しのつかないことになるという、大きなプレッシャーもあります。
人を助けたい、人のためになりたい。この想いを最優先に考えられる方が医療の道に進むべきだと個人的には考えています。実際、当病院で働いている職員には「お金のために働いているわけではない」と言う方が多いです。これは自分を捨てて、他者を大事に思う、キリスト教の「自己放棄の精神」につながります。医療とは、困っている人を助けることです。給料や福利厚生なども確かに大切な要素です。しかし、それは人を助けられたことの“付属品”にすぎないのです。


「評判のいい病院は職員が良い対応をする病院」とおっしゃる西野院長。職員の幸せを患者さんに分け与えることが患者さんの幸せにつながる、という考えをお持ちでした。