職人世界の常識を変える。若者の夢を叶える新たな取り組み
有限会社ピース代表取締役 小笠原 努
美味しさ=下積み時代ではない 誰もが挑戦できる会社へ
私はもともと有名な料亭で働いていました。しかし事故に遭い、繊細な仕事が難しくなってしまいました。そのショックでふさぎこんでしまった時期もありましたが、当時一緒に働いていた親方に「自分で店をやってみてはどうか」とお声がけいただき、この有限会社ピースを設立しました。
私はこれまでの職人イメージを覆す会社をつくりたいと考えています。一般的に職人というと、朝は早く、夜は遅いイメージがあると思います。実際にお店の伝統の味を覚えるためには長い下積み時代を経なければなりません。しかし、近年ではその環境に耐えられる人材も多くはないと思います。だからと言って自分の料理人への夢を途絶えさせてしまうのももったいない。
私の目標は短い下積みでも独立できるようなシステムをつくることです。
前職の料亭は誰もが知っている有名店でしたので、大手食品メーカーの方々が関連商品をつくってほしいとよく提案にきていました。最近は有名なお店が監修しているレトルト食品も多く、特別な技術がなくても美味しい味を表現できるようになりました。つまり、お客様に美味しい料理を提供するのと下積み時代の長さは必ずしもイコールではないと思います。 最終的にお客様が満足してくださる料理を提供できれば、独立できるはずです。もちろん、経営についても学ばなければいけませんので、そのような部分も含めて学ぶ場を提供していきたい。
経営者の立場から言えば、長く働いてくれるだけありがたいのですが、自分の夢を追って独立するのもいいと思います。完全に独立するのもいいですし、FC(フランチャイズチェーン)店舗として独立してもいい。当社が社員にとって夢を実現する力になれれば、それだけでも嬉しいのです。


非常に物腰の柔らかい小笠原社長。自身の経験から年齢や社歴に関わらず活躍できる環境づくりに注力されております。
OBスタッフも参加する親睦会 辞めても縁は続いていく
会社を設立して17年。これまで数えきれないほどの壁にぶつかってきました。しかし、そのたびに心強いスタッフがずっと私のことを支えてくれました。
当社で働いてくれているスタッフの多くは、アルバイトやパートさんの友達やお子さん、知り合いなど色々な人の紹介で集まってくれました。これは本当にありがたいことで、会社としても誇れることです。
設立当初は会社として組織化もされておりませんでした。私自身、職人出身でしたのでどこか感覚的な部分がありました。最初はレシピもなく、これまでの経験から作っていたのですが、それでは誰もが同じ味を提供することはできない。組織としてビジネスをする以上、同じレベルのサービスを提供しなければなりません。そこで私がつくっていた料理をレシピ化してくれたのもスタッフでした。それからは仕入先の選定、原価管理などもシステム化され、今では私の方が原価のことで怒られるくらいです(笑)
スタッフが増え、会社も少しずつ形になってきましたが、まだまだ小さな会社です。しかし、だからこそスタッフ同士の距離の近さも当初の魅力だと自負しています。新しいメンバーが加われば、その都度「親睦会をしよう」と話が上がり、その際はOBスタッフやパートさんのお子さんも参加するほどです。
昨年辞めたパートの方は当社で10年以上働いてくれました。その方は高齢で、退職というよりも、定年という言葉が正しいかもしれません。現在活躍しているスタッフも5年くらいになります。その他にも独立して去ったスタッフ、学校を卒業して去ったスタッフ、ほとんどのスタッフが自分の道を見つけ、それに向かって歩み始めた方々です。笑顔で会社を辞めたからこそ、今でもこうして集まり、人の縁が途絶えないのだと思います。


現在活躍されているスタッフについて、一人ひとり丁寧にお答えくださった小笠原社長。単なる付き合いの長さだけではなく、心から社員を想い、社員に感謝するお気持ちが伝わってきました。
環境とチャンスをつくることが、私の最大の役目
会社を立ち上げたばかりの頃は、それほど多くのことは考えていませんでした。当時、友人と二人でバーを運営していたのですが、そこへ新しい社員が入社してきました。彼は独立志向が強く、それなら友人と彼とでバーを運営してもらおう思い、友人にお店を譲りました。てっきり彼は友人のバーで働くと思っていたのですが、私の方に残ると言いました。
そのとき、私は彼に色々な経験をさせてあげたいという思いを抱くようになりました。それからは色々なジャンルのお店を立ち上げ、通常の店舗運営だけではなく、仕入れ業者とのやり取りやメディア対応など様々なことを教えました。彼はみるみる力をつけ、今では当社の主力メンバーとして会社を引っ張ってくれています。
もし、独立願望のあるスタッフが入社してくれたなら、その方々にも彼と同じように色々な経験をさせてあげたいと思っています。私は闇雲に店舗を増やし、会社の利益を上げようとは考えていません。ただ、「独立したい」「自分の店を持ちたい」という希望を持ったスタッフがいるのであれば、その希望を叶えるための手助けをしたい。その考えはずっと変わっていません。
会社の代表として、スタッフが楽しく働ける環境をつくることが自分の使命だと思っています。飲食店は仕込みや店舗管理など様々な業務をこなさなければいけないため、休憩時間も少なく、嫌厭されがちだったと思います。しかし、それでは人材が育たない。働きやすい環境と挑戦するチャンスをつくることで、スタッフの目標や夢を実現できる会社を実現することができると考えています。


「楽しく働いてほしい」という小笠原社長。その想いは現在活躍するスタッフの方々にも伝わっていました。