社員たちの「居場所」と「出番」をつくりたい
株式会社アンフォルム代表取締役 西原 真悟
人生の転機を迎え…技術者から経営者の道へ
もっと違った働き方で人生を豊かなものにできないのだろうか。
2003年、IT企業の技術者だった私は、働くことに対してそのような疑問を抱いていました。当時のIT業界は制度が十分に整っておらず、残業時間や稼働時間が多くて労働環境は過酷そのもの。私自身、経済的にはとても豊かでしたが、精神的には非常に厳しいものがありました。
そのような状況で、私は結婚や子供の誕生といった人生の転機を迎えました。ライフスタイルが大きく変化するなかで、人生が豊かになる働き方とは何かを自問自答し、転職も選択肢のひとつに考えていました。アンフォルムと出会ったのはそんな時期でした。精神的にも経済的にも豊かになる会社をつくりたい、という先代の社長の想いに共感し、当社への転職を決めました。
転職後、私は当社で活躍の場を広げようと努めていましたが、他のお客様先で働いている社員を見るうちに、ひとつの事実に気づきました。それは、以前の私と同じような悩みや問題を抱えている方々が多いことでした。
技術者の数はたくさんいますが、技術者をより良い環境に導いていける会社は少ないのではないだろうか――そう思い至った瞬間、経営者の立場から、働く社員にとってより良い「居場所」と技術者として活躍できる「出番」をつくりたい、という想いが芽生えたのです。
それを機に、技術者としての業務を遂行する傍ら、経営に関する勉強もスタート。二足のわらじは大変でしたが、将来にわたっての大きな投資だと思って努力した結果、入社から10年後の2013年に代表取締役に就任しました。以来、「居場所」と「出番」にこだわって経営を続けています。
私が経営をするうえで非常に大事にしているのは、社員と一緒になって居場所と出番をつくっていくことです。当社が掲げる企業理念も、社員たちと一緒に考えました。なぜなら、社員それぞれが、自分が会社の一翼を担っている、という意識を持たなければ彼らの居場所がなくなり、出番も訪れない気がしたからです。そのように、社員一人ひとりがただ働くだけではなく、それぞれの存在意義が高まるような組織でありたいと常々考えています。


「現状を変えたいと思う方はぜひ入社してほしい」とおっしゃる西原社長。中途入社をした経験があるからこそ、居心地の良い会社づくりに強いこだわりをお持ちのようでした。
制度づくりへの想い 最初は社員の1割でもいい
経営とは、人が、人のためにやる、人の活動です。つまり、関わるすべての人を幸せにする仕組みをつくることです。
私自身、社員一人ひとりとは従業員としてではなく、人として付き合えるような人間関係をつくっていきたいという想いがあります。そのために新しいことを私自らが率先して勉強したり、社員の声を取り入れたりすることで、社員たちに楽しんでもらえるような環境づくりに努めています。福利厚生の制度づくりもその一環です。
当社の福利厚生は非常に充実していると言われます。これは最初から整っていたわけではなく、特殊なライフスタイルになりがちな技術者に適した内容を社員たちと一緒に模索した結果、現在の制度になりました。
たとえば、リフレッシュ休暇は有給休暇とは別に5日間の休日を付与する制度です。この休暇制度には、一日だけの“単発”の休日は取得できないルールがあります。つまり、5連休、もしくは2連休と3連休に分けて取得しなければなりません。しっかりと連休を取って、リフレッシュしてもらうことが目的だからです。
また、我々の業界には技術や知識面でさまざまな認定資格があります。しかし、挑戦したくても費用が高くてなかなか手が出ないといった声がありました。そこで、資格支援制度を導入し、合格祝いとして受講費用を全額補助しています。その他、参加したい研修があれば会社側で費用を出し、技術向上を図るための希望の案件があれば相応の業務を用意するなど、社員のチャレンジを支援しています。
さらに、人間関係の悩みやお客様先のトラブルなど福利厚生ではカバーできない問題への対応策としてリーダー制を敷いており、困っている人がいれば、勤務場所やグループにかかわらず、必ずリーダーがサポートする仕組みを構築しています。
私も技術者なので、社員たちの働き方を十分に理解しているつもりです。社員たちの声に耳を傾けながら、働きやすいものになるように常々考えています。
実際に、他にはないような働き方や福利厚生の施策を打ち出すこともしばしば。提案内容によっては、難色を示す社員もいますが、その一方で興味を持つ社員もいます。そこで試験的に運用してみると、賛同する社員が徐々に増えていくケースもありました。
スタート時に社員の賛同が1割だったとしても、それが5割、6割と次第に増えていき、いずれは制度化していく。そのような文化を、当社ではとても大事にしています。


「私は全然偉くないんです」と謙虚さがにじみ出ていた西原社長。技術者として活躍した経験を生かして、技術者が働きやすい職場づくりに大切にしているそうです。
会社の100%ではなく、社員の100%を引き出す仕組みづくり
私は社員に対して、ふたつの貢献を求めています。「技術者としての貢献」と「会社文化への貢献」です。
貢献とは、自らが持つ知識やスキルなどを周囲に与えることです。たとえば、自分の役割以外にも技術を活用できる部分を探し、そこに力を注ぐことで喜んでくれる方々は大勢います。持っている技術を使って開発するのはあたり前で、大切なのは当社の理念である「当たり前のその先へ」です。あたり前が1だとすれば、1.01だけでも構いません。その1.01をたくさん積み重ねていく人財と一緒に働いていきたいです。
とはいえ、そのような人財を育成することはなかなか困難で、技術教育だけでは絶対に成しえないものだと感じています。社長の私が一人で、ああだこうだ、と押し付けたところで、それは単なるスピーカーに過ぎません。そこで、私が勉強で得た知識や外部から仕入れた情報をもとに、社員たちとディスカッションを繰り返し、自分の人生を豊かにする術を見出すため、社員たちと研鑽を積んでいます。
今後のビジョンは、現在、社員たちはお客様先で働いているため勤務地がバラバラなため、それを一つの場所に集約し、社員全員の力を結集できる「居場所」をつくっていくことです。そして、どんな小さな分野でも、アンフォルムという会社が世界のサービスの一翼を担える存在になるまで企業の価値を高めていきたいと考えています。
そのためには、会社として100%ではなく、社員の100%を引き出せる仕組みづくりが必要です。人には必ず特性や得意分野があります。自分に自信が持てない人は、それに気づいていないだけです。社員の中からできることを掘り起こし、今いる「居場所」で実践することで「出番」が広がる可能性があるなら、どんどん挑戦できる場を社員に提供していかなければなりません。
その仕組みを通じて、社員の能力を伸ばしていきたいと思っています。社員の力が10%伸びれば成果も10%増えるかと言えば、絶対にそうはなりません。人の力は足し算ではなく、指数関数的に伸びていくものです。
現状、仕組みづくりはスクラップアンドビルド。今回上手くいかなかったから、次は別の方法を試している段階です。それでも、理想の仕組みづくりを目指して続けていくことがとても大事だと思っています。


取材当日がちょうど帰社日だったこともあり、社内はとてもにぎやか。普段は勤務先が異なるため、帰社日に社員同士の交流を深めているようです。なかには温泉部をつくる社員もいるのだとか。
西原真悟 プロフィール
1999年 | 北九州市立大学経済学部経済学科 卒業 |
日本コンピューター株式会社 入社 | |
2003年 | 同社退社 |
株式会社アンフォルム 入社 | |
2010年 | 兼務取締役就任 |
2013年 | 代表取締役就任 |