“本物”が失われる前に…次世代へ伝える人財を育てたい
株式会社シンパチコーポレーション代表取締役 佐久間 丈陽
本物を伝えられる人財育成への取り組み
本物を次の世代に伝えていかなければならない。そのような使命感を持って「神田新八」を経営しています。
現在、世の中に出回っているお酒や食材を見渡すと、本物と呼べるものの数が激減しているように感じます。質よりも量を重視して製造された食品や保存料や防腐剤などが使われた食品ばかりが市場に流通してしまっていることがその要因です。
そのような時代だからこそ、生産者が丹精込めて作りあげた上質のお酒や食材を世の中に広めていきたいと考えています。そして、生産者の方々が一切の手抜きをせずにつくったものだからこそ、我々も妥協することなく、お客様に本物だけを提供していかなければなりません。そこで欠かせないのが、本物を伝えられる人財です。
当店では、人財を育てるためにさまざまな研修や勉強会を行っています。
例えば、年間通じて行っている日本酒の酒蔵見学では、酒造りの知識を習得することはもちろん、作り手の想いや姿勢に触れることができます。また、利き酒の勉強会では、数多くの日本酒を試飲して、味、特長、熱燗で飲むときの最適な温度などを学び、来店されるお客様のご希望に添った日本酒を提供するために欠かせない知識を得ることができます。
その他、酒蔵の大事な年中行事である呑み切り会への参加、酒蔵や酒屋が主催するイベントの運営補助、サービスマナー研修、マネジメント研修なども行っています。そのような研修や勉強会を通じて、本物を見極められ、本物を世の中に発信できる人財を育てていきたいと考えています。


「すべてにおいて手を抜かない」とおっしゃる佐久間社長。本物を提供するお店であるために仔細な部分にまでこだわりを持っておられます。
夢を持つ社員を出来る限り応援したい
私の好きな言葉に「天地人」というものがあります。
「天」はチャンス、「地」は器、「人」はその器を扱う人を示しています。チャンスは誰にでも与えられるものです。しかし、そのチャンスを受け容れる器が小さければすぐに溢れてしまいますし、仮に割れていればチャンスはこぼれ落ちる一方です。そして、器がしっかりしていても、その器を扱う人に素養や知識が備わっていなければせっかくのチャンスをみすみす逃してしまいます。
当店で働く方々や今後新たに入社する方々には、それぞれが抱いている夢を叶えてもらいたいと思っています。そのために「人」を育み、「地」である器をより大きく、頑丈にする取り組みを進めていきたいと考えています。
当店には「ゆくゆくは自分のお店を持ちたい」という社員も多く在籍しています。彼らは最終地点こそ見えていますが、まだ道半ばです。それでも、いずれは独立という夢を叶え、みんなで経営の話をしながら切磋琢磨できる関係性を築いていきたいです。私自身、それがゴールだと思っています。
そのゴールを目指すために、独立する社員へのる支援制度を強化したいと考えています。資金的な援助が必要なのであれば積極的に支援していきたいですし、仕入れ先の紹介やお客様への宣伝活動といったバックアップもできる限り行っていきたいです。
そのような支援制度を整えていくことにより、「神田新八」を巣立っていく人財が増えることで、本物に次の世代に伝えていきたいと考えています。


佐久間社長は2010年に父親からお店を継承した2代目社長。それ以前は税理士として活躍していました。
地域活性化のために「大江戸日本酒まつり」を主催
当店は、吉祥寺に店を構える「にほん酒や」とともに、「大江戸日本酒まつり」を主催しています。
大江戸日本酒まつりとは2013年から年に一度、人気飲食店と酒蔵が手を組んで一日限りの屋台を出店し、来場者の方々に料理とお酒のマリアージュを楽しんでいただくイベントです。居酒屋評論家の太田和彦先生、『夏子の酒』の原作者である漫画家・尾瀬あきら先生など、多くの方々からもご支援をいただき、現在では一日に3000人を超える方々が来場する人気のイベントになっています。
このイベントを始めたきっかけは、大阪の「上方日本酒ワールド」に参加したことでした。居酒屋と酒蔵がコンビを組むお祭りを東京でも開催できるのではないか。そう思い立ち、いろいろな店舗や酒蔵に声をかけました。そして、1年半ほどの準備期間を経て開催に至りました。
なぜ、大江戸日本酒まつりを開催したのか――。私は、このイベントにふたつの想いを込めています。
まずは、神田の地域活性化です。13、14年は神田明神、15、16年は神田金物通りで開催しました。神田というこのイベントを通じて「神田に日本酒のお祭りがある」というイメージを世の中に浸透させることで、神田の活性化に貢献していくことがひとつめのコンセプトです。
そして、もうひとつが日本酒業界の発展です。大江戸日本酒まつりに参加する飲食店は、日本酒をメインに取り扱う人気店ばかりです。そのような飲食店と酒蔵の方々にご賛同していただき、ご協力を賜りながら、日本酒業界の発展に向けたイベントの運営をしています。
これからもイベントのコンセプトや続けることの意味をしっかりと考えながら、次回以降の開催に備えたいです。


大江戸日本酒まつりの他にも、毎年10月1日(日本酒の日)に開催されるハシゴ酒イベント「日本酒ゴーアラウンド」にも参加しています。